CPUは何故焼ける?    
−−−−−−−   伝熱材選定シミュレーション   −−−−−−−−


 Z-flowという、三次元熱流体シミュレーションソフトウエアのデモ版で、またまた伝熱解析を試みた。

 計算モデルは、CPUクーラは冷えてもcoreは熱いの計算モデルで伝熱材比較だ。
 
 私自身、実際には使った事のない材料ばかりだが、使っていなくとも簡単に使えるのがシミュレーション。
 この結果は、あくまでも計算だから、実際には違っているかも知れないが、大きく違っていることもないだろう。




基本条件
周囲環境:20℃(293.15k)
CPU: Athlon 100W
ヒートシンク: 熱抵抗0.16K/Wの8cmFAN
   (アルファのFH8040、ベース 8cm×8cm×厚さ7mm)
バッファ:4cm×4cm×厚さ5mm銅板
安定板:CORE厚さの銅板、外形寸□4cm、CORE部の逃げ16×12mm
(巷では、コア欠け防止板と呼ばれているもの)

計算モデルとしては、CPUクーラーは冷えてもcoreは熱いのB−1モデル



伝熱材水準

1.G751
K-craftさんが、小売り販売を開始した信越シリコーンの放熱用オイルコンパウンド、
熱伝導率:
4.5W/m℃の高い熱伝導率が売り
コア部のみ塗布、安定板はバッファに密着
厚さは0.00〜0.20mmで計算

2.TSC−1
田川アルミさんが販売する、FEXTPUPたかちん氏開発のスペシャルコンパウンド、塗り易いとの評判
熱伝導率:2.6W/m℃
コア部のみ塗布、安定板はバッファに密着
厚さは0.00〜0.20mmで計算

3.普通のシリコーングリース
普通の放熱用シリコーン、熱伝導率:0.84W/m℃
コア部のみ塗布、安定板はバッファに密着
厚さは0.00〜0.10mmで計算

4.PGSグラファイトシート
松下電子部品製、銅の2倍、アルミの3倍という
驚異の熱伝導率というグラファイトシートで厚さ 0.1mm
熱伝導率は600〜800W/m℃(面方向)、5W/m℃(厚さ方向)
この水準については、更に
  
PGS局部使用:coreサイズのPGSグラファイトシート、安定板はバッファに密着
  
PGS      :安定板サイズのPGSグラファイトシート

5.PGSグラファイトシート積層品
驚異のPGSグラファイトシートと0.1mm厚さのシリコーンラバーを積層したシリコーン積層品で厚さ 0.2mm
熱伝導率は250〜300W/m℃(面方向)、3.15W/m℃(厚さ方向)
3.15W/m℃はPGSグラファイトシートの熱伝導率と、伝熱シリコーンラバーの熱伝導率1.3W/m℃と仮定して、計算で求めた。
  PGS積層:安定板サイズのPGSグラファイトシート


なお、収束までの時間は関係ないので、何れの伝熱材も密度2500kg/m3、比熱800J/(kg・K)とした。
シリコーンコンパウンドとシリコーンラバーの密度ほぼその程度、比熱は適当な値、PGSグラファイトシートの密度は、1000kg/m3、これも比熱は不明




境界条件
熱境界条件(計算領域の周囲6面)はヒートシンクベース上面を除き連続、流入温度293.15kに設定

固体表面はヒートシンクベース放熱面を除き、
通常の熱伝導(固体表面の熱抵抗は考慮していない)で設定、
固体の初期温度は全て293.15Kに設定した。

バッファとヒートシンク間には、0.05mm厚さの伝熱グリース(熱伝導率0.84W/mK、密度は2500kg/m3、比熱は適当に800J/kg・Kに設定)

格子数10000制限ではとても全体をモデルにできないので、ベースのみでベース放熱側から、ヒートシンクの性能に見合った熱抵抗が発生するように熱伝達率を設定した。
アルファのFH8040の熱抵抗は0.16K/W、この時の条件は□7cmのヒーターブロック

ヒートシンクの放熱表面積は、8cm×8cmで100Wの熱量が流れる訳だから
 熱流束は15625W/m2となる。

0.16k/Wの熱抵抗ということは、100Wの熱が流れると16Kの温度差が発生すること。

よって、熱伝達率は、
15625W/m2/16K=977W/m2・K
この値を使用して、□7cmの100W熱源でヒートシンクベース(8cm×8cm×厚さ7mm)の
計算モデルでシミュレーションし、ヒーター界面側のヒートシンク温度を算出
16kの温度差になるよう、何回かシミュレーションしながら熱伝達率を模索

その結果得られた値は、1030W/m2・K

また、外部温度は、293.15Kと設定した。


流体条件
流体は、空気を設定
体積力はX軸に重力加速度9.8m/s2


発熱

AthlonのCPUコアは8mm×12mm×0.98mm(_実際にはもう少し薄い)の珪素とし、100Wの発熱だから、発熱密度は、100W/9.408e-08m3=1.063e+09W/m3となる。

なお、コアが載ったPGAの板は適当に0.4W/mK、2200kg/m3、850J/kg・Kとした。


格子数
(いわゆるメッシュだが、
 3次元なので格子?)
格子数は、製品版では無制限、デモ版は、格子制限10000以下なので、
全ての計算モデルでXYZの格子数を揃え、同一計算と格子制限内での設定とした。



計算条件
非定常の標準設定で時間ステップの収束誤差は温度のみ1×10^-9に設定、不足緩和係数は反復回数を減らすために1に設定した。
各水準10ステップ、1ステップ50sec、反復回数50で設定。

CPUコア中心部の温度変化をモニタし、温度が定常化していることを確認する。



結果は、この通り


シリコーンコンパウンド
当たり前のことだが、熱伝導率の順で、G751、TSC-1、0.84W/mK品の順となった。
コア中心温度100℃は、G751で厚さ0.18mm、TSC-1で厚さ0.10mm、0.84W/mK品で0.03mm、塗り方が厚いと、急激にコア中心温度は上昇する。
0.84W/mK品をコア部に使うのは、ちょっと問題有りだが、熱伝導率2W/mK以上で、延びの良い、塗りやすいものなら良いのではないだろうか。
塗り方と当たり面の表面状態次第ではあるが、
PGSグラファイトシートよりも良い結果が出せる
ちなみに、PGSグラファイトシート以上の性能を得ようとすれば、G751で0.08mm以下、TSC-1で0.05mm以下、フツーのヤツで0.015mm、コピー用紙1枚の厚さが約0.1mmだから、塗ってグリグリ、気泡や余分なモノを滲み出させる。
当たり面の状態が良好であることが前提だが、表面積の小さなコアだけが対象なら、厚さ0.02mm以下も可能、余程の不器用で無い限り、失敗することはあるまい。


世の中、コア欠け防止、或いはCPUコア周囲からの放熱強化を謳い文句に安定板が大流行。
もし、安定板の厚さとコア高さを比べた時に、安定板の高さが高かったら、どうするのだろうか.....
良く解っていらっしゃる諸兄ならば、安定板の面を削り、コア高さに合わせて微調整。
もし、そのギャップを普通の0.84W/mKシリコーンコンパウンドで埋めようなんて考えると、何も告げずにCPUは御他界される。
なお、雷鳥のゴム足を押し潰すだけの度胸が無い方も、同じ憂き目を見ることになるから、安定板だけの話では無い。


PGSグラファイトシート
確かに、高い伝熱性能を持つが、高性能なシリコーンコンパウンドが手に入る今となっては、驚異的なモノではない。
驚異的な熱伝導率は面方向の話、厚さ方向の熱伝導率はその1/100以下。
それでも、
G751の熱伝導率以上だが、厚さ0.1mmが足を引っ張る、しかも柔軟なシートと言っても所詮は固体の箔、伝熱面に粘り着くシリコーンコンパウンドとは訳が違う。
CPUコア表面とバッファ表面の平面度が共に良好で、ある程度の面圧がないと、完全密着は有り得ないから、カタログ性能を100%発揮させるのは難しいだろう。
シリコーンコンパウンドを薄く塗ることができれば、わざわざ使用する程のことは無い。

それでも、上手く塗れない、あるいは上手く塗れたかどうか心配な方には、何とか焼き鳥作らずに済むので、お勧めする。

それと、お金の使い道に困っている方は、是非ともお使い頂きたい!!
なにせ、
重さで、金地金の6〜8倍、面積で見れば1万円札よりも更に高価なのだから....
直接、サンプル価格を問い合わせたこともあるが、元の値段も高いのだ、メーカーさんはホントに売る気があるのだろうか....

ちなみに、シリコーンゴンパウンド−金の比較
G751−1.02倍、 TSC-1−0.06倍、 SCH-20−0.06倍



面方向の驚異的な熱伝導率を活かすことの有効性
コアサイズのPGSと安定板サイズのPGSで、コア中心温度の差は僅かに1.8℃、確かに効果はあるが、思った程ではない。
シミュレーションでは、バッファ全面にPGSが密着したとしての結果だから、実際には体感出来る程のものではないだろう。
この原因は、僅か0.1mmのその厚さ、いくら熱伝導率が優れていても、ペラペラの0.1mmでは運べる熱量はしれている。
良く考えると、銅だったら厚さ0.2mm、アルミだったら0.3mmの薄膜がバッファに貼り付いたのと同じでしかない....



PGSグラファイトシート積層品
熱伝導率は250〜300W/mK、シリーコンラバーの柔軟性で密着もバッチリ、最初はこれこれと喜んだが、厚さ方向の熱伝導率を計算してみると、TSC-1よりは上、ところが、厚さは0.2mm、グラフを見ていただければお判りの様に、core中心温度は約120℃、こんがり焼き鳥一丁!!
僅か0.2mm挟んだだけで約60℃の温度差、伝熱材の性能よりも、とてつもなく大きい熱流束が悪いのだ、



今回私の出した結論

塗りの技さえあれば、高性能なシリコーンコンパウンドが一番効く
  驚異のPGSグラファイトシートなれど驚異のデータは方向違い
 ・高性能なシリコーンコンパウンドであっても、盛り上げると焼き鳥
 ・安定板は、躓かないよう、必ず使用前に厚さ調整








伝熱材選定シミュレーション計算結果(数値はCPUコア中心温度、単位:K)

厚さmm 0.00 0.01 0.02 0.05 0.10 0.20 0.01 0.02 0.05 0.10 0.20 0.10 0.10 0.20 0.10
伝熱材 G751 G751 G751 G751 G751 TSC-1 TSC-1 TSC-1 TSC-1 TSC-1 PGS PGS
局部
PGS
積層
0.84
W/mK
time 0 293.15 293.15 293.15 293.15 293.15 293.15 293.15 293.15 293.15 293.15 293.15 293.15 293.15 293.15 293.15
50 325.85 328.05 330.30 337.01 348.20 370.57 329.69 333.57 345.19 364.57 403.12 344.12 345.88 383.06 444.91
100 330.19 332.41 334.67 341.41 352.69 375.30 334.06 337.96 349.66 369.21 408.29 348.58 350.36 387.93 450.90
150 331.55 333.76 335.98 342.79 354.07 376.73 335.41 339.32 351.04 370.60 409.80 349.91 351.75 389.38 452.46
200 332.00 334.22 336.45 343.25 354.55 377.21 335.87 339.78 351.50 371.08 410.30 350.40 352.20 389.87 452.94
250 332.16 334.39 336.63 343.42 354.72 377.39 336.04 339.89 351.66 371.23 410.51 350.57 352.37 390.04 453.12
300 332.23 334.46 336.69 343.48 354.79 376.92 336.12 339.95 351.72 371.33 410.57 350.64 352.45 390.11 453.24
350 332.27 334.49 336.74 343.50 354.81 376.84 336.15 340.02 351.75 371.32 410.61 350.65 352.49 390.14 453.24
400 332.28 334.48 336.70 343.52 354.83 376.83 336.13 340.05 351.78 371.37 410.64 350.68 352.50 390.16 453.28
450 332.28 334.51 336.62 343.52 354.85 376.83 336.16 340.02 351.81 371.40 410.63 350.71 352.52 390.14 453.29
500 332.19 334.52 336.69 343.55 354.86 376.85 336.18 340.01 351.77 371.41 410.64 350.70 352.52 390.16 453.18




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